A New Japan is a online magazine that explores social-, cultural-, and economical change in Japan and covers it in through interviews, articles and in a monthly podcast.

出る杭は引き抜かれる

「出る杭は打たれる」

この言葉を初めて聞いたのは17歳の時、僕は交換留学で日本へ来た高校生グループの一人だった。成田空港から滞在先ホテルのロビーに到着してすぐ、迎え入れてくれた留学コーディネーターの方が日本の文化を説明し、僕らにこの言葉「出る杭は打たれる」を紹介した。当時2011年だったが、今の日本にもこの言葉は当てはまるのだろうか。

 ジェームズ・ライニー

ジェームズ・ライニー

2018年1月、僕は500 Startups Japanの共同設立者ジェームズ・ライニー氏に会って取材をした。彼は澤山陽平氏と共に、みずほ銀行、ニコン、三菱地所からの出資を得て、2015年東京に500 Startups Japanを設立した。同社は、シリコンバレーのスタートアップエコシステムを最大限日本に取り入れることを目的としていた。

500 Startups Japanは現在まで総計4900万米ドル(約52億円)の資金調達に成功し、人工衛星の通信事業を運営するInfostellarや、人事労務のためのクラウドサービスを提供するSmartHR、消費者向けにゲノムデータ事業を展開するAwakensなど、日本であらゆるスタートアップ事業に投資してきた。

僕は日本のスタートアップエコシステムや、ジェームズが目の当たりにしている日本の変化や課題などについて取材したかった。また、当時26歳だったジェームズが、どのようにして東京でベンチャーキャピタルファンドの代表に就任したのかについても聞いてみたかった。

「今は、出る杭を引き抜く時代」

現在の日本のスタートアップエコシステムには、ポジティブな傾向が見られます」インタビューはジェームズのこの言葉で始まった。「特に二つの大きな変化について取り上げたいと思う。現在日本では、新しいトップダウン式の起業促進が目立つ。行政は助成金という形でスタートアップを支援しているし、多くの官民ファンドはスタートアップと連携したり、スタートアップに投資していると思う。みんな、なんらかの形でスタートアップに関わりたがっている。たった数年前と比べても、日本で根本的な変化が起きている」

2018年3月、ジャパンベンチャーリサーチは、日本の民間スタートアップの資金調達金額が総計25億米ドル(約2875億円)に達し、過去最高を記録したと発表した。ちなみに3年前の2014年には9.6億米ドル(約10.5億円)だった。この急成長についてジェームズは、「より多額の資本が調達可能になったということだけでなく、日本の行政や企業が、スタートアップエコシステムを支援していることが背景にある。これは、日本のような社会で大きな違いを生む」とジェームズは解説する

ジェームズはその意味をよく理解している。昨年、官民ファンドのクールジャパン機構が、500 Startups Japanに1000万米ドル(約11億円)を出資し、史上初の日本政府による外資系VCへの投資となった。日系企業もこぞってスタートアップ投資に乗り出し、出資額の総計は2017年に過去最高となる6億米ドル(約640億円)に達した。

しかし、米国に比べると道のりはほど遠い。GDPに対するベンチャーキャピタルへの出資額において、日本が米国と同レベルに達するには、数年以内に少なくともベンチャーキャピタルへの投資額を100億米ドル(約1兆680億円)まで引き上げなければならないという。ジェームズは世界と比較して日本の現状を見据えている。

トップダウン式の起業促進や多額の調達資金に加え、有能な社会人や学生のスタートアップに対する考え方も著しく変わってきている。一流大学の学生は、卒業後はスタートアップに参加したり、自ら起業したりすることをかなり実行可能な選択肢と捉え始めている。「大手コンサルティング会社や投資銀行、伝統的な日本の大企業を退職して、起業する人はたくさんいる」とジェームズは言う。

とは言っても、やはりスタートアップに適する有能な人材を発掘するのは難しい。日本でLinkedinは普及していないし、日本人はシリコンバレーにいるアメリカ人とは違い、自己PRをして積極的に自分を売り込むことをしない。しかしジェームズは「日本では採用オファーが集中しすぎるということはないので人材確保の競争は低いし、適切な人材を見つけさえすれば、確保しておくことは簡単。日本は文化的にも有利な点がある:一般的に日本人は勤務先へのロイヤリティーが高い」と語る。

外国人が日本のスタートアップに参加することは可能?

 500 Startups Japan 設立者の澤山陽平です。

500 Startups Japan 設立者の澤山陽平です。

外国人が日本で働くことは簡単になってきてはいるが、やはり課題もある。言語の壁や文化的な違い、人事部や管理職と明確に意思疎通できないことから、日本の社会や職場からの疎外感に苦労する外国人は多い。

一方で、日本のスタートアップは海外拡大に向け、バイリンガルで有能な人材を常に探している。日本語を話せない場合には、日本語の習得が必要になると考えたほうが良い。ジェームズは、外国人が日本に来て起業することは勧めないが、日本語を覚え、可能な限り日本の文化に馴染む覚悟さえあれば、日本のスタートアップで働くことは可能だと言う。

ジェームズと話して、日本におけるベンチャーキャピタルファンドの運営は、単に出資金調達やスタートアップ投資を首尾良くこなしてればいいという訳ではない、ということが分かってきた。500 Startups Japanは、政府、コーポレートベンチャーキャピタルファンド、スタートアップコミュニティーなど、さまざまなステークホルダーを一つにまとめている。

課題は、投資家や起業家に限らず、関わっている人すべてに価値を生み出すこと。一人一人のパイのサイズを増やすには、スタートアップの創業者たちが単に儲けるのではなく、その人たちが次にベンチャーキャピタリストやエンジェル・インベスターとなって、新しいスタートアップに投資するようなサイクルを作り出すこと。スタートアップの実績や成功例を着実に増やし、その知識や経験をエコシステムに還元する。そして最も大事なのは、未来の起業家となる若い世代に希望を与えること。

「今は身を引いて、ベンチャーキャピタリストになることにした」

実はジェームズ自身も起業家からインベスターになった経歴を持つので、このサイクルに当てはまる。ジェームズは東京で育ったため多少の日本語は話せたが、流暢に話せるまでに習得したのは、アメリカからの交換留学生として日本に戻った時だった。ペンシルベニア州立大学卒業後はJ.P.モルガンのニューヨーク本社でインターンを経験し、その後同社の東京オフィスに勤務した。

ジェームズはJ.P.モルガンで約2年間アナリストとして働き、大きな組織で先の見通がつく働き方は、彼自身に合っていないということに気づいたという。「J.P.モルガンを退職したいと考えていた時、自分の上司や、さらにその上の上司を思い浮かべながら自分にこう問いただした:『10年後、15年後、こんな大人になっていたいか』って。J.P.モルガン退職を決断するときに背中を押したのは、自分で仕事の舵を取り、与えられた時間で自分がした仕事による影響力を最大限に高めたいという野心だった」そうして2012年、ジェームズは23歳でResuPressの共同創業者となった。

 500 Startups Japan 設立者のジェームズ・ライニー氏と共同設立者の澤山陽平氏、大手町のオフィスにて。

500 Startups Japan 設立者のジェームズ・ライニー氏と共同設立者の澤山陽平氏、大手町のオフィスにて。

ResuPressは現在、仮想通貨取引所のCoincheckとして知られている。しかし2012年当時は、Medium.comの日本バージョンとでもいうStorys.jpなどのクリエーションサービスを生み出していた。日本のハイテクコミュニティーの支持を得てからは、広告収益で10-20名ほどの社員を雇用できるまでに成長したという。それでもジェームズが目指す規模には至らなかった。「そのスケール感には全然興味が湧かなかった。まだまだだった」ジェームズは当時を振り返って「正直に言うと、その時点で燃え尽きていた」と言った。

起業家という立場でありながら、次にやるべきことがはっきりと分からず、ジェームズは一時的に何か違うことに集中することにした。彼がこう言うように:「(スタートアップの創業者という立ち位置から)一度身を引いて、今はベンチャーキャピタリストになると決意した」

彼はその後、eコマースおよびモバイルゲーム開発事業を展開するDeNAに入社し、東南アジアとアメリカを中心にグローバル投資に従事した。「これにより、500 StartupsのDave McClureに出会った。ある時、彼がうちに来て日本でファンドを立ち上げないかと聞いてきたんだ」と、500 Startupsとの出会いを語ってくれた。

ジェームズの輝かしいキャリアの秘訣とは? ー  どんなに成功しても、もちろん彼の決断が彼自身を成功に導いていても、常に謙虚でいることのように思う。「もしやりたいことがあって、どうやるかが分かっているなら、僕なら80%の確信を持てるって思う。実際にやってみないと100%の確信は持てない」とジェームズは言う。

日本の未来のスタートアップエコシステムはどうなっていると思う? ー 「日本発の真のグローバル企業は長いこと出てきていないが、だからといってそれが不可能ということではない。その野望を抱いているスタートアップはすでに日本にある。現時点では、膨大な試行錯誤を要すると思う。とは言っても、日本のスタートアップエコシステムは日増しに拡大し強固になってきているので、日本発のグローバル企業は今後必ず生まれてくると確信している」

 

編集長のあとがき

日本のスタートアップ・エコシステムについて、詳しくはジェームズのブログで読むことができます。

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Clawing Out Nails in Japan